データドリブンマーケティングとコンサルティングファーム
Post Date:
2020-02-12 / Update-date:
2021-05-26 /
Category:
IT・デジタルコンサル特集
マーケティング業界は、急速なインターネットの普及とIT技術の進歩によってその在り方が大きく変化しています。中でも近年注目されているのが「データドリブンマーケティング」というものです。
今回の記事では、データドリブンマーケティングについての解説と、コンサルティングファームの役割について解説していきます。
デジタルマーケティングとは
データドリブンマーケティングの解説の前にデジタルマーケティングについてまずは説明していきます。
デジタルマーケティングとは電子デバイスやインターネットを活用して行うあらゆるマーケティング活動の総称です。代表的な手法としてはインターネット広告やメールマガジン配信などが挙げられます。
マーケティングの基本的な考え方として、最適な場所、最適なタイミングで最適なものを顧客に届けることを目標にしています。長らく、実店舗やTV・新聞広告などが中心となっていましたが、インターネットの普及により“最適な場所”がデジタル世界に遷移したことでデジタルマーケティングが生まれました。
さらに、デジタル世界では顧客の行動を1つ1つ詳細に記録・分析できるようになり、そのデータを基にマーケティングひいては製品の戦略にまで繋げようという動きが強まっています。これが「データドリブンマーケティング」です。
データドリブンマーケティング
前節で申し上げた通り、データドリブンマーケティングはデジタル世界で収集した膨大な顧客データを様々な活動に活用するというデジタルマーケティングの1手法です。
データドリブンマーケティングの発生要因
データドリブンマーケティングが発生した要因は大きく以下の2つに分けられます。
- 多数の「スモールマス」市場の発生
消費者のライフスタイルや嗜好性の多様化によりマス市場が縮小し、その分多様なニーズが生まれています。マスマーケティングの縮小に従って多くの「スモールマス」市場が発生しています。
従来は、例えば「20代女性」という属性によって特定のターゲットを定めて広告を打つという手法が一般的でした。その際にはテレビ広告を出していれば、ターゲットはテレビを見ているという前提に立っていました。
しかし、実際には同じ20代女性でも時と場合によって同じ製品・サービスでも求めるものは異なります。お酒を飲む場合であれば、クライアントとの会食で気を使うのか、気の置けない仲間と楽しく飲むのか、家で一人で飲むのかといった場面によってお酒の種類も、飲み方も変わってきます。
こうした場面ごとに切り取ったスモールマスに焦点を当てて、メッセージを訴求できればターゲットの行動を変えられる可能性があります。 - データ経済圏の誕生
デジタルチャネルが多様化し、IoTが浸透したことにより、データが加速度的に増加したことでデータ経済圏が構築されています。
パーソナライゼーションにおいて、個々人の行動データを取得し、分析することが重要ですが、近年ではスマートフォンに加え、ウェアラブル端末やカメラ、センサーなど多様なデバイスから容易に情報を収集することができます。また、その中でより重要となるのが、こうした豊富な情報から個々人の行動をどこまで捉えることができるかということです。
自社で収集できる情報にはどうしても限界がありますが、企業間でデータ共有を進めることで顧客のカスタマージャーニーにより迫ることができ、購買までの心理・行動変化を多面的に理解できます。
データドリブンマーケティングの流れ
データドリブンマーケティングは以下のプロセスに分けることができます
- マーケティング戦略
デジタルマーケティング戦略の第一歩は、ゴールを明確化することです。活動を通してどのような成果を得るかを定義します。
ゴールの設定は、具体的に定義する必要があります。対象となる製品・サービスを設定し、そのマーケティング活動全般において、デジタルマーケティングがどのような役割を果たすかを定義し、その成果を測る指標と数値目標を決めます。
これらを決定して初めてどのようなデータを収集し、分析するかが決まります。 - データ収集
マーケティング戦略に従って必要なデータを収集していきます。マーケティングで活かせるデータは、業界や業務によっても異なりますが、一般的には顧客の購入履歴、購入に至るまでの経緯、利用満足度、リピート率、家族構成、交友関係、興味・関心などが挙げられます。こうしたデータは各顧客に紐づけて管理する必要があります。また、収集したデータを全社で統合しておくことも重要です。 - データの可視化と分析
データ収集の大元となるビッグデータは、ビジネスで即、有効活用できるものばかりとは限りません。データを活用できる状態を作るために、加工する手間が必要になります。可視化の作業にはWeb解析ツール、BIツールといったツールが必要になります。
データを可視化できたら、それらを分析していきます。マーケティング戦略で定めた指標や数値目標に関連する要素を読み解いていきます。
この際、見かけの相関関係に騙されないように注意する必要があります。 - 分析結果の反映
分析ができたら、目標達成のための仮説立てをし、マーケティング戦略やマーケティング施策に反映させていきます。ここまでのプロセスを何度も回し、アジャイルに戦略や施策を更新していくことが重要となります。その結果、現状の課題を解決するためにカスタマージャーニーを大きく変えるような取り組みが進められる場合も有ります。
データドリブンマーケティングの事例
ヤクルトスワローズの例:(出典:https://www.hitachi-solutions.co.jp/flp/case03/)
従来プロ野球球団の多くがプレイガイドを通じたチケット販売を行っており、顧客データを把握することや、直接メッセージを送るということが出来ませんでしたが、自球団でチケット販売をし、CRMと連動させることで、顧客行動を把握できるようになりました。
2013年度のシステム導入から2年連続(2015年時点)で売上がアップし、翌シーズンに向けたファンクラブ加入も大幅に増加しました。
エネルギー小売業の例:
顧客、購買、接客データを分析し、離反につながる特徴を特定することで、そうした顧客に訴求しやすいチャネルで引留め策を講じ、離反率を低減させる仕組みを導入しています。
例えば、コールセンターに電話する回数が多く、もっとお得なプランが無いかと聞いてくる顧客は離反リスクが高まっている。こうした顧客に対してメール送信やフォロー電話をすることで離反しにくくしています。
ファッション業界の例:
機械学習を用いて、個人の嗜好、行動特性、購買履歴に基づいて商品ごとの購入確率や将来のLTVを予測し、顧客に対するメッセージ、チャネル、タイミングを最適化することに成功しています。
商品の提案の際にも、単なる製品や価格を示すだけでなく、テキスト主体がいいか、画像メインがいいか、アプリなのかSNSなのか平日か週末かなど、細部まで分析した上で適切な打ち手を取っています。
特にファッションの場合は、何もしなくても同じブランドの商品を繰り返し購入する顧客、ブランドは固定せずに選ぶ顧客、こちらから働きかければ購入する顧客など様々な特徴を持つ顧客がいます。こうした様々なタイプを踏まえて、今この瞬間にどの商品をどのくらいの確率で購入しそうかということを、アルゴリズムを使って予測することで限られた資源を最も効果の高いところに集中させることが出来ます。
コンサルティングファームの役割
コンサルティングファームにおいて、データドリブンマーケティングをサービス(顧客に提案する際のプロジェクトテーマ)の中心にしているファームは多くありません。というのも、コンサルティングファームが担う領域は戦略やマーケティング全体であり、その中の1手法がデータドリブンマーケティングとなるためです。とはいえデータの活用でカスタマージャーニーやビジネスモデル/裏側のオペレーションを変えることにも繋がる場合がある為、重要な位置づけではありますし、プロジェクトを進める中での主要論点になる場合はあります。
このことを踏まえたうえでデータドリブンマーケティングにおけるコンサルティングファームの役割を考えていきたいと思います。
<戦略ファーム>
戦略ファームでは前述の通り、マーケティング全体やブランディング戦略全体を担います。そのため、データドリブンマーケティングはその中の一つという位置付けではありますが、ビジネス全体の戦略/方向性を踏まえたうえで、マーケティング視点では現在活用可能なテクノロジーでどこまで出来るか、どのようなデータが必要となるのかといった部分を中心に進める形となります。
事業会社が陥りがちな手法として、AI活用やマーケティングオートメーションという言葉から入り、まず社内のデータを繫ごうとします。これでは時間/労力を要するにも拘わらず、顧客視点や活用価値のあるデータを踏まえられておらず、インパクトに繋がりにくいです。戦略ファームのアプローチとしては、ビジネス/テクノロジー両面の知見からインパクトに繋がりそうなやり方/そのために必要なデータをいくつか定めたうえで、アジャイルに立ち上げ、回していくものです。そのうえでスケール化すべき手法や結果として出来上がるカスタマージャーニーを特定し、そのためのデータ基盤整備を行っていきます。
また、企業のデジタルトランスフォーメーションまでを担っている場合には、データマーケティングを超えて、顧客接点/販売のビジネスモデルをどのように変えていくか、そのためには自社のオペレーションをどう変えていくか、というところまで踏み込んで支援をします。
<総合ファーム>
システム部門を抱える総合ファームでは、マーケティング戦略からデータ解析/分析ツールの選定や開発までを担うケースもあります。ツールの開発に関してはSIerを介する場合もありますが、PMOは総合ファームのコンサルタントが担います。
なお、総合とはいえ、マーケティング戦略建てやデータセットの設計、活用に関する施策を考えていくプロセス/アウトプットは戦略ファームと大きく変わりません。
<IT系ファーム/SIer>
IT系ファームやSIerでは、元々ツール開発を担っていることも有り、データ分析に強みを持つ企業が多くあります。そのため、データドリブンマーケティングの導入を企図してプロジェクトを始めるケースもあります。但し、この場合でも大事なのはツール/今あるデータありきの開発ではなく、顧客視点でのアプローチになります。
デジタルマーケティングのスキルを身に着けるメリット
マーケティングに力を入れ始めたコンサルティングファームも多い中、ファーム内でデジタルマーケティングスキルを身に着けるメリットを紹介していきます。
汎用的なマーケティングスキルを習得できる
事業会社に入社してマーケターになる場合、ほとんどのケースで自社プロダクトのマーケティングを担当することになります。
一方、コンサルティングファームでは当然ながら様々な業界のマーケティングに関わる事になります。よって、汎用的なマーケティングスキルを習得/向上させることができるため、俯瞰的な目で「マーケティングとはどういうものか」を学ぶことができます。
上流の戦略を踏まえてマーケティング戦略を描ける
コンサルファームが取り組むプロジェクトについては、単にマーケティングにおけるXXXというテーマ/課題設定のみならず、『会社や事業の経営戦略をどう考えて、その中でのマーケティングをどのように考えるか』、といった上流の戦略から考える案件があります。その場合マーケティングがどう必要なのか、必要として、ツールとしてどのように活用していくかという根本から考えていく形になる為、案件の難易度としては高いものの、マーケに限定されない経営/事業戦略から考える経験や将来的に起こりうるインパクトとしては面白いと考えます。
最先端のマーケティングノウハウを学ぶことができる
現在、日本のBtoBマーケティングは欧米に比べて10年遅れていると言われています。この事の背景には、日本のものづくり神話に代表される、「いいものを作れば自然に売れる」といった考えに長くとらわれ、マーケティングを軽視していた歴史があります。そのため、マーケティング機能が営業部門のサポートに留まっているケースが多く見られます。
この事に比例して、企業におけるマーケティングの最高責任者であるCMO(Chief Marketing Officer)というポストは、US企業では約90%が設置しているのに対し、日系企業では約17%しか設置していません。これはニーズが存在しないからではなく、ただマーケティングをやっていない、あるいは、着手できていないからだと言えます。
外資系総合ファームであれば、日本では得られない先進的なマーケティング事例を学ぶチャンスがあります。
将来のキャリア形成に活きる
コンサルティングファームでデジタルマーケティングのスキルを身に着けることは、将来のキャリア形成に非常に有利に働くといってよいでしょう。ある大手外資系コンサルティングファームが行った調査によると、テクノロジーサービスをマーケティングに活用している企業としていない企業では、収益成長率において2倍以上の差が存在することが明らかになりました。日系企業はまだまだこの分野に弱く、欧米に大きく後れを取っています。
しかし裏を返せば、今後成長していく分野であるという事ができます。近年、大手外資系コンサルティングファームが日系企業向けのデジタル事業部門を設置したり、CMOを設置する企業が増えたりと、デジタルマーケティングに重点を置く企業が増えてきています。企業がデジタルマーケティングを取り入れ、かつ十分に活用することで期待された成果を出すことは、決して容易いことではありません。世界的に見ても、マーケティング戦略を社員がつくり、MAも導入し、メディアバイイングも実施している、つまりデータドリブンマーケティングが浸透している、というある意味理想の状態になっている企業は、アマゾン社だけである、と評価されているようです。しかしだからこそ、コンサルティングファームにおいてデジタルマーケティングスキルを身に着け、かつ企業のマーケティング戦略に携わったという経験値は、これからマーケティングの強化を行っていこうとする企業にとっては、理想的な人材であるといえるでしょう。まだまだ比較的新しく、これからの発展が期待できる領域なので、ファーム内で上のキャリアを目指すことも可能でしょうし、他ファームの重役へとキャリアアップする可能性も十分あり得ると言えます。
マーケコンサル経験者を募集する案件として以下のようなものが挙げられます。
・Webサービス企業におけるデジタルマーケティングのストラテジックプランナー
業務内容:デジタルマーケティングの最新のテクノロジー、メソドロジーを情報収集・習得し、クライアントのマーケティング活動に活かすためのストーリーを考え、提案・導入していく役割。重要クライアントと長期的なパートナーシップ構築への貢献と、社内のナレッジマネジメント推進、デジタルマーケティングの戦略立案・企画立案機能がミッション
・世界的製薬リサーチ会社の新規コンサルティング部門におけるマーケティングのスペシャリスト
業務内容 : 特定の製品/サービス群の責任者として、開発/拡大戦略、価格戦略、コミュニケーション&プロモーション戦略等を立案し、グローバルを含めた関連部門をリードしながら、ビジネス目標の達成、及び価値の最大化を実現することがミッション
・大手ITメディア企業におけるマーケティング/企画推進(リーダー候補)
業務内容 : 顧客育成から流通対策まで幅広いテーマの中で、各担当領域におけるキャンペーン活動を、計画立案から、他部署を巻き込んだ実行、効果計測、継続的な改善まで一連のプロセスを担っていく役割。ユーザーマーケティングの知識及び経験を活かし、生命線であるマーケティングを企画推進していくことがミッション
・日系大手自動車メーカーにおけるマーケティング/商品企画ポジション
業務内容 : 北米・欧州をはじめ、インド・インドネシア・アフリカなど全世界でグローバル展開が加速する中、新規開発のコアを担う商品企画を行う役割。世界中の市場分析/情報収集を行い、それを踏まえた将来の販売機種戦略を考え、現地法人と連携して機種戦略を策定すること、及び新機種の開発における営業側の責任者としてプロジェクトに参画することがミッション
まとめ
これまで見てきた通り、データ経済圏の確立によりこれまでのマーケティング手法や顧客接点、カスタマージャーニーは大きく変わりつつありますし、今後も変わっていくでしょう。データを蓄積することやそれを分析すること、機械学習でその精度を高めていくことは非常に重要になりますし、これまで人間が人手をかけて分析/検討していたことが自動化されていくのは事実です。一方で、現在の機械学習やAIの限界として、分析の精度を高められたとしても、因果関係が分からないことが多く、ましてはそこからカスタマージャーニーにどう反映させていくか、というところは、ビジネスや現場感を踏まえた仮説検討や判断が必要になります。コンサルティングファーム自身も、人材の幅を広げてテクノロジーや分析のケイパビリティは高めているものの、従来の論点出し/ビジネスや現場知見を踏まえた仮説出し/検証といったプロセスは大事にしておりますし、実際に従来コンサルタントとテクノロジー系のコンサルタントが協業して大きなインパクトを出したプロジェクトも有ります。
現在データマーケティングやテクノロジー系の知見が無いとしても、ファームで斯様な形でデジタルマーケティングやデータドリブンマーケティングに関わることも面白い、かつ知見も高められるのではないでしょうか?
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